Palmはキャズムを越えていたのだろうか?

Palmはキャズムを越えていたのだろうか?

ジェフリームーアの「キャズム」という名著がある。
この本ではPalmがキャズム越えの事例として紹介されているということなので読んでみた。

キャズム本の概要を要約すると、「ハイテク製品を市場に普及させるマーケティングにおいて、初期市場で戦っている段階からメインストリーム市場へ移り変わるところに大きな溝(キャズム)という落とし穴があり、その越え方の解説をする。」ということだ。

初期市場は、ごく少数のイノベーターという層(新製品に対して新しいというだけで飛びついて試したがる人々の層)と、少数のアーリーアドプターという層(新製品がイケてそうならリスクがあっても導入してみる層、ビジョナリー)を攻略することで市場への足掛かりを作ることになる。
この段階ではイノベーターは勝手に買ってくれるので営業の努力はほとんど要らないが、その先のアーリーアドプターへはまずトップ営業などで人柱となってもらってまだ粗削りな新製品を提供し実用性を証明することになる。大事なパトロンなので念入りなサポートが必要となる。

そしていよいよ次の段階のメインストリーム市場では、アーリーマジョリティ層(実利主義者の層)と、レイトマジョリティ層(保守派の層)という大きな市場を狙う。
保守派は普及期にまで達しないと製品を購入しないので、攻略は最後になる。
アーリーマジョリティ層をまず攻略しないといけない。
しかし初期市場でアーリーアドプターを攻略していたやり方の延長では、アーリーマジョリティ層の実利主義者は攻略できず、営業をしても市場が伸ばせないキャズムという落とし穴に嵌ってしまう。
メインストリーム市場の攻略方法、つまりキャズムの越え方は次の通り。
・市場をセグメントに分割して考え、ニッチな市場を全力でまず攻略し、橋頭保にする。
・新製品を「ホールプロダクト」にして売る。製品単品を売るのではなく、その市場向けのパッケージ商品のようなものだ。
・ニッチなセグメント市場の中で数社の顧客を攻略すれば口コミ効果が期待できる。
・ニッチなセグメント市場でマーケットリーダーになる。「小さな池で大きな魚になる」
ここまでが第一段階で重要。
後は、橋頭保として次のニッチを次々に攻略し、徐々に橋頭保を増やしていく。

ここで4つの例のうちの1つとしてPalmの事例が出てくる。

Palmは初めてキャズムを越えてメインストリーム市場に到達したPDAだという。
橋頭保となるべきターゲットマーケットは、企業の経営者や管理者層で、電話帳(メールアドレス帳)とスケジュール管理がアプリが紙の手帳にないデータの更新やスケジュール調整などのメリットで各社が売り込んでいた。
まずシャープやカシオなどが日本でいうところの電子手帳のような製品を出していたが討ち死にし、次にHPのHP95LXやAppleのNewtonなどが討ち死にした。
Palmは、PDAの機能としては最低限に削ぎ落して、価格を抑え、クレードルで電話帳とスケジュールのバックアップや同期という機能を売りにしたのだが、これがヒットし、経営者層や管理者層に普及し、それ以外のユーザーにも拡大して売れるようになった。

勝利したPalmは、その後もPalmⅢでマイクロソフトのWindowsCEベースのPalm PCなどの高機能PDAで対抗して勝利し、シンプルなPDAの改良版PalmⅤでこの本の著者(頑固は保守派)までもが買ってしまったという。


Palmの成功についてはシンプリー・パームという伝記本(?)をあとで読もうと買ってあるのだが、積んであるだけで読んでいない。


日本だとPalmは本当にキャズムを越えたのだろうか?
日本語のJ-OSとか出ていて盛り上がっているのは目にしたし、SONYがCLIEというのを出したりしていたのも知っている。

しかし、自分のまわりでは1人しか使っている人は見かけなかった。(会社の中ではその新入社員の男性1人だけだった。)
会社の経営者層や管理者層で使っている人を見ることは無かった。自分がそういう層との接点が少なかったのを差し引いても、自分が勤めていた会社やつきあいのある会社でメインのターゲット層のユーザーはまったく居なかった。

PDAはその後も自分の周りでは普及していなくて、携帯電話が普及して初めてPDA的な情報機器を持ち歩くのがやっと普及していったのだった。

日本固有の問題で、日本語入力の問題をPDAは解決できなかったというのが一因かなと思う。あと、PDAとスケージュールなどのデータを共有できるようなグループウェアが日本では普及していなかったというのもある。




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